【庄原市・東新会「ヤマモトロックマシン 旧自治寮活用プロジェクト」】よみがえらせるのは建物だけじゃない。かつてのコミュニティをもう一度。

photographs and text by Sayaka Okita

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
時計の針が再び動き出した。庄原市東城町にある創業102年を迎えたヤマモトロックマシンという会社の旧自治寮の修復作業が行なわれている。昭和10年代の建物で、国の登録有形文化財に指定されている。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
アールデコの照明に、ブリキの叩き出しの天井、釘を一本も使っていない階段は細工が見事。瓦は翡翠色、アルミのお皿や、古いオルガンやクラリネット。「この建物はもはや芸術ですよ」。そう話すのは、このプロジェクトを担う団体「東新会」の樫原節男さんだ。40年以上も空き家だったこの建物の修復を2013年から始めた。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
この日は、およそ30人が参加して、床の張替えや、建具の修繕、屋根裏の構造の確認などを行った。敷地の真ん中にドンっと大きなラフタークレーンがお目見え。材料を最上階に運ぶためだ。なんてったって、この寮は木造3階建て。当時、ここまでの建物は大変珍しかった。現在でもこのように綺麗な状態で残っている木造3階建ては滅多にお目にかかれない。ヤマモトロックマシンは、さく岩機の製造で発展した。当時も、大勢の社員がおり、街は賑やかだった。ひときわこの寮の豪華な作りは目立った。この近代遺産をどうにかよみがえらせたいという思いで大勢の人々が集まった。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
注目すべきは、集まっているメンバーだ。一級建築士でありヘリテージマネージャー(歴史的建造物保存活用資格者)でもある樫原さんをはじめ、若手大工、屋根屋、建具屋、地元自治会メンバー、地元の女性たち、会社OBのみなさんなどなど。仕事も立場も違う人々が集まって、「よみがえらせる」をテーマに、修復に必死なのだ。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
普段は宮大工をしている34歳の高宮和也さんは、「昔の技術、丁寧な作りに触れることができる。残していきたい」と話す。10代の大工もいた。若い職人にとって、ここは恰好の学びの場だ。自治会のメンバーである川上祐三さん(85)は「地元の交流の場になれば」と期待に胸を膨らませる。お昼ご飯を作ってくれた女性は「話ができるし、みんなでごはん食べると美味しいしね」と笑顔だ。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
このイベントに参加した人は、ぜひOBの川上廣美さんを探そう。10年間、この寮で生活をしていたため、当時の話が聞ける。当時、寮の豪華さは群を抜いていた。講堂や娯楽室で、花札をしたりトランプをしたり……、150人ほどが暮らしていたため、にぎやかだったそうだ。食堂のご飯は毎日麦飯。麦飯カレーがおいしかったという。大きなお風呂があって、地域の人たちも入っていたという。働きながら定時制の高校に通う若者も、寮に住まわせてもらっていた。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
当時の話を聞いていて気付いたことがある。ここは、単なる寮ではない。ヤマモトロックマシン(旧山本鉄工所)初代社長が寮を作る際に大切にしたのは「暮らす人の幸せ」だった。社員も、地域の人も、学生も、子どもたちも、豊かなに楽しく暮らせるスペース。それが、ヤマモトロックマシンの自治寮なのだ。それは、これだけ手の込んだ建物を見てもわかる。娯楽室や講堂もある。敷地内には畑もあり、自給自足で生活していた。大量消費の時代に、豊かな生活とは何か、を突き詰めた。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
初代の孫にあたる現在の社長、山本将登さんは「ただの古い建物という印象だったが、このプロジェクトが始まり、祖父の考えに触れられた。思想とともに建物を残せればと今は思う」と語る。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
先日の修復イベントに、家族寮で生まれた子が60歳になって訪れたそうだ。このスペースは今も人を集める。「みんなで幸せになろうという思想が、建物の構成から伝わってくる」と樫原さんは言う。地域、社会、コミュニティとは何か。この建物にはそのヒントがある。時計の針が再び動き出した。建物の修復という契機を得て、もういちど人が集まるスペースに。みなの願いだ。

〈次回の開催日〉

11月3日(金)~5日(日) ヤマモトオープンフェスタ (国登録有形文化財建物公開イベント)

そのほか作業の予定などはFacebookページをチェック!


◆プロジェクトのHPをみる