ひろしゃま

ヤギと暮らせば。暮らしの中に余白をつくる

ひろしゃまvol.20

ヤギと暮らせば。暮らしの中に余白をつくる

お話をしていただいたのは

 

「草刈りが嫌いなんです」と笑顔で語る入瀬さん。

生まれ育ったのは庄原でも、田や畑や山々に囲まれ、草刈りをしなければすぐに草に飲み込まれてしまうような環境。そんなわがまま通用するはずがない。

しかし、この“草刈り嫌い”があったからこそ、ヤギと出会い、ヤギネットワークひろしまの仲間やヤギがいる暮らしに出会うことができた。

ヤギにのめりこんだからこそ見えてきたヤギの可能性や入瀬さんの活動の基盤となっているヤギネットワークひろしまについて、お話を伺った。

草をお金にかえる。ヤギならきっと

「草を刈るのが嫌い」と、事もなげに語る入瀬さん。田舎で生きることは、自然の中で生きることなのだから、草を刈るのは当たり前だが、この不文律に笑顔で異を唱える。もちろん、重労働で、本人があまり好きではないこともあるが、草刈りがなくなれば田舎の暮らしが変わるはずだと語る。実際に、農作業の中でも草との戦いに割かれる時間は多いため、田舎だからといって親子の時間が十分に取れているとは言えないのが現実だ。

もしヤギが草を食べてくれれば。そんな気持ちから、ヤギへの関心が高まっていく。高校卒業後に働いていた牧場の会長の、「山菜など豊かな草がこんなにあるのに、お金にせずに放っておくなんてもったいない」の一言がずっと頭に残っていた。「たしかに、と思いました。そして、ヤギならそれができるかも」入瀬さんは、ヤギへの道を進み始める。

ヤギを知れば知るほど、中山間地域の社会課題の解決にフィットした特徴に驚いていく。例えば、食べる草の種類は幅広く、また牛のように大きくないので、傾斜地や段々畑への対応が抜群で、高齢者や子どもでも飼いやすい。また、暑さへの適応が早く、ミルクも肉も取れる。一頭あたりの搾乳量や食肉にできる量は牛の方が多いかもしれないが、傾斜地が多く高齢者の人口が増える中山間地域において、草刈りの負担を減らし、たとえ温暖化が進んでも適応できるヤギは、食料にもなる。さらにセラピー効果もあり、人に可愛がられやすいので、人が自然と集まるといった効果もあるという。

暮らしを助け、地域を多様な形で支えてくれるヤギ。食用としてだけでなく、ペットとしてだけでもない。人々の暮らしの中に、ちょっとした余白を届けてくれるヤギ。惚れこむのも仕方がない。入瀬さんの話を聞いていると自然とそう思えてくる。

ネットワークの力と個人の実践

しかし、ヤギを取り巻く状況は充実しているとは言えない。ヤギが牛・豚・鶏のような畜産の重点支援品目に入れられていない、行政などの協力も得にくい、研究も進まないなど、裾野が広がらないためだ。また、そうした社会的な認知度の低さのせいもあり、ヤギは簡単に飼えると勘違いされ、飼育者の管理がずさんなケースが多いのだという。

そうした中、きちんと情報提供を行い、ヤギが健康で安全に普通に飼える形にしたいとの思いから、ヤギネットワークが誕生した。「全国山羊ネットワーク」という全国規模のネットワーク体はあったが、2013年「第15回全国山羊サミットin広島」が開催するのに先立ち、広島もネットワークをつくりきめ細かな情報交換や飼養技術に関する勉強会開催などの活動をしようと、同年に「ヤギネットワークひろしま」が立ち上がった。現在メンバーが100人強で、入瀬さんはこのネットワークの中心メンバーとして活動している。ヤギを飼うのはあくまでメンバー個人で、ネットワークは個人ではカバーできない県内や全国の事例や研究者・実践者とのつながりを提供している。ヤギ飼育におけるメンバーの経験や悩みがネットワークにすくい上げられ、全国の知見がネットワーク主催の勉強会などを通じメンバーに還元されるなど、規模が小さいからこそ双方向性があり大変機能している。

ヤギの歩幅で一歩一歩

ヤギは、中山間地域でかゆいところに手(足?)の届く存在であり、「ヤギネットワークひろしま」といった実践者を支える仕組みもあるが、まだまだ課題も多い。その中でも特に気になるのはやはり経済性だ。昔から「貧乏人の酪農」と言われており、実際に食肉にしてもミルクにしても、なんとか黒字にはなるが、生業にできるレベルではないと入瀬さんは言う。

だからといって、入瀬さんは簡単に引き下がりはしない。ミルクや肉はもちろん、草を食べるヤギをレンタルしてお金を稼げないかなど様々な可能性を探っている。また印象的だったのが、エサへのこだわりだ。日本では、家畜のエサが遺伝子組み換えであっても、それを表示しなくてよいが、本当にそれで安心・安全の食べ物といえるのかと入瀬さんは疑問に感じている。

もし、野菜のヘタや果物のしぼりかすなど、捨てられるはずだった地域の安全な食材がヤギのエサになれば、本当の安心安全な地産地消に一歩近づけるのではないか。

ヤギの無限の可能性を探り続ける入瀬さん。入瀬さんのヤギへの思いは、周りを巻き込むエネルギーになってもまだ足りず、どんどん膨らむばかりである。

編集後記

入瀬さんの話を聞けば聞くほど、ヤギの持つポテンシャルとユーティリティー性に惹かれました。またここでは書けなかった信頼できる周りの方々の存在も印象的でした。「ヤギの時代」は近そうです。(ライター 岡本)
 
ヤギは乳も出ればお肉も食べられ、傾斜や環境に強いので羊や乳牛よりも有利。これからはヤギの時代を確信した、笑顔あふれるひとときでした。(撮影 つじっち)

ひとこと活動紹介:ヤギネットワークひろしま

ヤギを愛する人たちが集まり、ヤギを飼育する技術を磨き、相互の親睦を図り、社会的知識や教養を高め、また地域に貢献する姿勢を養うことを目的としたネットワークです。尾道市の「ヤギを活用した高齢者の生きがいと耕作放棄地解消の取組」に技術支援をしたり、ヤギによる雑草管理の実証実験に効力したりと、県内のヤギに関わる活動をリードする存在として日夜がんばっています。「人とヤギとの良好な関係づくり」「最近の山羊事業」「ヤギのある暮らし」などにピンときた方はぜひご連絡ください。

ヤギと暮らせば。暮らしの中に余白をつくる
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取材したのは

  • 岡本 泰志(--)
  • つじ りゆういち(地域発掘ライター/つながり研究家)
  • やまっち(--)