ひろしゃま

アーティストを思い、ふるさとを思い続ける アート・コーディネーター

ひろしゃまvol.23

アーティストを思い、ふるさとを思い続ける アート・コーディネーター

お話をしていただいたのは

 

 「知らない世界ってわくわくする。まだまだこれから!」と話す言葉はエネルギーに溢れています。時にはアーティストとして、また時にはアーティストと社会をつなぐコーディネーターとしてアートの力を発信し続ける水野さん。アートは人とのコミュニケーションのツールであり、社会問題を考えるきっかけだと言います。そして、何物にも囚われない心の自由が必要なのだと。自由を愛し、変化を楽しむ柔軟な生き方をされる水野さんのアートな人生のこれまでとこれからについて、お話を伺いました。

mm projectのはじまり

 安芸太田町加計の国道186号沿いに空き店舗を自ら改装して作り上げたギャラリーがある。作品が映えるようにと白いドライウォールにむき出しのコンクリートの床。2015年9月に現代アートギャラリーが、アートプロジェクト『mm project』のスペースも兼ね備えてオープンした。広島県の中山間地域において、こうした個人で所有・管理する現代アートギャラリーは大変珍しい。
 水野さんは現在、アーティストのご主人と息子さんの家族3人でアメリカに住み、アメリカを拠点に広島を行き来する生活を送る。ここは小学校卒業まで過ごした町。アメリカでの生活が長くなり、お母さんから日本に帰ってきてほしいと言われ続けていた。帰国後、なにかふるさとで自分の力を発揮できないかと探る毎日を過ごしていた。
 そんな中、ふと以前関わった「信楽まちなか芸術祭」を思い出す。町中がアーティストの制作した個性溢れるたぬきの焼物で彩られた。自分のふるさともアート作品で飾られたら。ご主人のやってみたらいいよという後押しももらい『mm project』が始まった。『mm』は水野さんとご主人の2人のイニシャルから名付けたものだ。
 安芸太田町は確かに人口減少が進み、高齢化が進んでいる。一方で自然豊かなこの町には創作活動に必要な素材にあふれ、ゆっくりと流れる時間はアーティストの創作場所として最適だと水野さんは言う。

地元アーティストが発信できる場所づくり

 「身近にアートが楽しめる、アーティストが作品を発信できる場が必要なんです」と語る。それはアメリカでの経験が大きかった。
 作品を作り、展示し、買ってもらってこそアーティストは評価され、生業となる。アートのマーケットが成熟しているアメリカであっても作品展示を実現するまでにはたくさんの苦労と多くの人からの支援が必要で、自分たちも今までに多くの支援をしてもらってきた。今度は自分が日本で恩返しをしたい! そんな思いもあって、地元のアーティストが発信できる場所をつくった。
 筒賀の大イチョウをモチーフにしたロウケツ染めの作品展、地元の方の日常等を撮影した写真展など、地元出身のアーティストの作品展示を行った。続けていくうちに、周囲の人たちがアーティストを紹介してくれるようになる。
 こんなにもふるさとにはたくさんのアーティストがいたんだと驚く。
 中でも平野薫さんとの出会いは節目となった。ドイツでの活動を終えて帰国したアーティストの平野さんから、作品作りに鯉のぼりを探しているという相談を受け、水野さんの実家の蔵に大事に保管されていた鯉のぼりが見つかり、2体を平野さんに提供した。その鯉のぼりは亡くなられた弟さんのために生前購入したものだった。長く実家を離れ、お母さんと過ごす時間が短かったことが、ずっとどこかひっかかっていたが、この作品がアートで生きてきた水野さんとずっと家を守ってきたお母さんとを結んでくれた。鯉のぼりが日の目をみることができ、ちょっとは親孝行できたかなと話す。

あきらめなければ、道は開ける

 「一度きりの人生、どうせやるなら好きなことをやっていきたいと思っています。とりあえず5年は主人と一緒にアート作品を作り続け、アーティストとしてアメリカを開拓していきたいし、それに主人とああだこうだと言いながら、一緒に制作する時間がとても幸せで、楽しみなんです」と心ときめかせながら、これからの展望を教えてくれた。アメリカはコレクターや画廊も多く、厳しい世界でもあるがチャンスも多い場所。日本のアーティストをもっとアメリカでも知ってもらえたら…。自身のこれまでの経験を活かし、現地コーディネーターとして、アメリカと日本のアーティストの橋渡しになれたらと考えている。
 「絶対にあきらめないでほしい。とにかくいろんな価値観に触れて、自分を磨いてほしい」と水野さんは広島のアーティストへエールを送る。「でも時には作品から少し離れて、ぼーっと何もしない時間も必要ですよ。主人も何もしないことのほうが多くて心配になることもありますけどね」とお茶目にご主人のことを語る。
 さらに『mm project』のこれからにも夢が膨らむ。アーティスト・イン・レジデンス(※)として、この場所が活用できないか。作品を作り出すプロセスの中で地域の人との関わりも生まれていくかもしれない。そのプロセスも展示物として発表するのも面白そう。この町の環境とこの場所があれば、きっとできるはず。
 今度お会いするときにはどんな活動をされているのか、今からお話を聞くのが楽しみだ。

(※)アーティストがある地域で一定期間滞在して、作品をつくり、そこで発表をする取組

ひとこと活動紹介:「mm project」

「アーティストの力でよりよい社会を」をモットーに、地元や広島に在住、または関係する現代アーティストの紹介やその作品の展覧会を企画。またアートがどのように地域と関わることができるか、地域の魅力発信や問題解決ができるか、などといったプロジェクトも行なっている。地域の人がものづくりで発信する「Me AcT」や地元のお母さんたちが作る「野草茶」のパッケージデザインなどの活動にも関わる。今後は長く在住するアメリカと日本のアーティストの橋渡しをしていきたいと考えている。

編集後記

変化することを楽しみ、ご自身の在りたい姿を追求しつづける、好奇心旺盛な水野さんの姿に自分もそうありたいと感じました。 (大田・ライター)
 
旦那さんの制作活動等について生き生きとお話される水野さん。旦那さんへの想いが溢れ出ていて、思わずほっこりしました。また、年齢を重ねても、腐らず、どんどん新しい事に挑戦されていく姿はとても素敵で、見習いたいと思いました。(久我・撮影)

アーティストを思い、ふるさとを思い続ける アート・コーディネーター
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取材したのは

  • 岡本 泰志(ひろしゃま・へんしゅう部 部長)
  • 大田 真奈(ひろしまジン大学スタッフ)
  • 久我 遥(フリーデザイナー)